漫画「スキップとローファー」が目指す被災地支援の取り組み 世代・地域をつないだ広告と企画とは

 2024年1月に発生した能登半島地震の被災地復興を支援するため、石川県奥能登出身の高校生が主人公の漫画「スキップとローファー」の特設サイトが2024年12月23日に立ち上がった。同日の朝日新聞朝刊には、サイト開設を告げる新聞広告が掲載された。サイトを訪問して第1話を読むことで、1人につき100円が石川県に寄付される仕組みで、1カ月間で10万人以上が参加した。企画したのは作品が掲載されている講談社「月刊アフタヌーン」編集部。企画に込めた思いや反響について、同編集部の金井暁編集長、プロモーションを担当した出版営業本部コミック営業部の上ケ市亜矢氏に聞いた。

主人公が能登出身だった。震災直後から能登半島支援の取り組みを開始

 「スキップとローファー」は、中学卒業を機に奥能登から上京し、東京の進学校に通う高校生・みつみを主人公に、周囲の人や友人たちとの関わりを通じて、みつみの成長や心の機微を描いた作品だ。連載は2018年に始まり、特設サイトがオープンした2024年12月23日に11巻が発売された。

 主人公みつみの心の支えになっている家族や幼なじみが暮らす架空の町は、石川県珠洲市がモデルだ。作品の中でもたびたび登場し、物語と主人公にとって大切な場所として描かれている。作者の高松美咲さんは富山県出身で、石川県珠洲市には祖父母が暮らしており、自身も何度も訪れていたことからモデルにしたという。

 20243月に発行された10巻の巻末で、同年1月の能登半島地震で祖父母が亡くなったことを明かした。巻末に寄せたメッセージには「被災地に関心を向け続け、寄り添って関心を持っていく」と記した。

 その後、高松さんと同編集部は「スキップとローファー10巻 能登半島地震応援版」の売り上げなどを中心に、昨年8月までに計約2300万円を被災地に寄付するなど継続的な支援を行ってきた。

 特設サイト「スキップとローファーと能登」の立ち上げもその一環だ。
金井暁編集長は今回、作者だけの努力でもなく読者からの寄付だけでもなく、企業として継続できる寄付活動を模索したという。特設サイトは2025年1月22日までの期間限定で、目標人数だった10万人を超える10万7149人が参加。同社は寄付金の上限としていた1000万円を石川県の義援金口座に寄付した。

特設サイトを中心とした施策を新聞広告で紹介

 特設サイトの立ち上げに伴い、1223日の朝日新聞朝刊に広告を掲載した。

掲載紙面_20241223 スキップとローファー 2024年12月23日付 朝刊 全15段1.80 MB

 「漫画の主人公が、能登出身だった。」という言葉とともに、作品主人公みつみが前を向くイラストが大きく描かれ、アフタヌーン編集部から読者へ企画の意図を伝えるメッセージも記された。

 「この漫画を読むと、たとえ行ったことがなくても、能登を身近に感じられる。それは被災地を想い、復興のためにできることを考える第一歩になります。みつみを通して、一人でも多くの人に能登とのつながりを感じてもらうことを願っています。」

 通常、広告や企画に描き下ろしイラストを掲載する際、あらかじめ構図などを編集部から指定することが多いが、今回は作者の思いを大事にしたクリエイティブを心がけたという。

 「今回は高松さんが描きたいように描いてくださいとお願いしました。正面から読者の方を見るようなカットになるかと想像していたが、前を向くみつみちゃんを見たときは感動しました」と上ケ市氏は語る。

 金井編集長も「アフタヌーンはB5判なので、イラストをこの大きさでは掲載できないんですよ。A2サイズでほぼ人の顔の大きさと遜色ないぐらいに、こうやって載せることができたのは、漫画やイラストを取り扱うメディアの舞台として、嬉しかったです」と顔をほころばせる。

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 新聞広告の共通調査であるJ-MONITOR(調査実施機関、ビデオリサーチ)の自由回答結果には、幅広い年齢層の読者から、漫画を読むことで寄付ができるという今回の取り組みを高く評価する声が寄せられた。

 「『スキップとローファー』を読むことで能登を身近に感じられる。こういう形の支援の仕方もあるんだと感心しています。私も読んでみたいと思いました。」(女性40代)
「能登半島地震に関して気軽に社会貢献できる企画であり、素晴らしいと思う。単なる漫画が有意義なコンテンツに思えてしまうアイデアは素晴らしい」(男性50代)

 新聞広告での発信で、作品のメイン読者層の10~20代を超えて作品や取り組みに巻き込めたことができたという手応えがあるという。
「こういう広告を出して1番ありがたいのは、『名前は知っているけどまだ読んでいない』という方が生まれることです。名前だけでも知ってくださっているのは潜在的なお客様だし、読者様です。朝日新聞の読者の方に、潜在的な読者になっていただくことができたと考えています」(金井編集長)

新聞の全面広告は「思い切った」取り組みのザ・トップ

 こうした施策を発信する場として朝日新聞の新聞広告を選んだ背景には、金井編集長が「朝日新聞の新聞広告」に寄せる大きな信頼感があった。

 当初、企画の発信方法として媒体の有力候補として挙がっていたのはOOH(屋外広告)だった。しかし金井編集長の「この取り組みを伝えるには媒体も意識したい。屋外広告で『自分たち、こういう寄付活動をやってますよ』と声高らかにアピールすることには、少し違和感がある」という呼びかけで新聞広告を検討することになったという。

 「例えば漫画関係で何か広告を出す、宣伝を打つという時に、新聞の全面広告は特別です。これ以上の影響力と値段も含めての『思い切った』ということで言うと、ここがそのザ・トップです。そういうこともあり、我々漫画編集部が社会的に意義のあることをしたいとなった場合に、朝日新聞の紙面をお借りできたらすごく嬉しいなっていうのは、率直なところでしたね」(金井編集長)

 金井編集長のキャリアの中でも、全15段の新聞広告は同誌で掲載している「ダーウィン事変」に次いで2例目だ。震災から1年を目前にしての出稿は、単に寄付金を集めるという目的以上のものがあったという。

 「去年の震災後、ご実家にいた高松さんと休載の話や単行本の話を進める中で、やはり何かできることはないか、という話し合いになりました。そこで、3月発行の10巻では能登半島地震応援版を作って、その利益分を寄付するという形にはできました。

 ただその時、寄付をしてくれたのは読者です。今度は違った形で支援に協力したい、ということで実施を決めました」(金井編集長)

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 特設サイトの開設期間は1カ月間だったが、オープンから3週間ほどで、目標としていた10万人を突破することができた。サイトオープンと同時に発売された11巻も重版がかかり、「スキップとローファー」作品そのものへのファンも取り組みを通じて増えていることを感じているという。

 上ケ市氏も取り組みの広がりを実感したという。
「同僚には、普段漫画を全く読まないという親から、『(新聞)広告を見たよ』と連絡がありました。また全国に届けることも叶いました。
 もともと検討していた OOHにも影響力や物理的な大きさがあります。ただ、地方の方からは『( OOHなどが見られる)東京はいいな』と言った声がSNSに挙がっているのを目にして気になっていました。今回の掲載で、新聞広告では世代や地域を限定せずに伝えられるんだと、思えました」

社内横断的に広がった北陸三県の書店イベント

 被災地支援への思いは、実はアフタヌーン編集部だけのものではなく、社内横断的にあったという。今回の施策では、新聞広告だけでなく、全国の書店と連携してプロジェクトを告知するイラストがプリントされたミニカードを配布した。ミニカードは特設サイトと同じスタンプ風のデザインで、全部で4種類を用意した。富山県、石川県、福井県の北陸三県の一部書店では、白紙のカードに実際にスタンプを押せる特別仕様にした。

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※講談社サイトより

 この企画の実現には、社内の販売促進部の存在が不可欠だったと上ケ市氏は明かす。 「社内には、地方書店と1店舗ずつ向き合う営業部署があり、被災地の複数の書店にも足を運んでいます。震災直後、本棚が倒れ店内が大変な状況になった店舗もありましたが、少しずつ再建して、お店を再開されている書店も増えています。
 その姿を見てきた営業担当から、被災地のために現地の書店と一緒に何かをしたい、という声が挙がりました。 それを受け、北陸の書店では特別な仕様のものを手配できたらという話になり、ミニカードではなく、スタンプをお渡ししました。すごく評判が良くて、本当にやって良かったと思っています」

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読者、出版社、書店、媒体を広く巻き込んだ取り組みを実現

 社内の連携、広告会社や媒体を巻き込んでいくプロジェクトが進んでいくことは、まさに金井編集長が実現したいと思っていた形だった。

 「震災後、高松さんのご家族と話をしたのですが、もともと過疎化が進む地域で起こった災害、地震だったので、復興するというのは不可能かもしれないし、すごく大変だと言われたんです。そういった現実と『スキップとローファー』の作品、私たち編集部がどう向き合うかを考えました」と金井編集長は振り返る。

 「漫画って現実に起こっていることに目を背けて、全然関係無しに物語として書こうと思えば書けなくはない。そうなりがちなメディアです。 ただ、それだけで終わらないためにはどうするか、と考えた時に、書店や朝日新聞も巻き込んで、現実と作品が進んでいく方向を今回の取り組みで作れたのではないかと思います。これで終わらせず、被災地支援のアクションを編集部として続けていきたいです」(金井編集長)


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