10月5日、米アップルの創設者で前最高経営責任者(CEO)だったスティーブ・ジョブズ氏が亡くなったというニュースは、文字通り世界を駆け巡った。もちろんイギリスでもこの訃報(ふほう)は大々的に取り上げられ、ロンドン市内に複数あるアップルストアには、彼の死を悼む人々が花束やメッセージ、リンゴなどを持って追悼に訪れる姿が見られた。
イギリスでは7日付になったが、ガーディアンやタイムズなど各紙とも大きな紙面を割いて、彼の足跡をたどった記事を発行した。ちなみに各紙の見出しは次のような内容。
タイムズ: Secret legacy of man who changed world(世界を変えた男の秘められた遺産)
フィナンシャル・タイムズ:The magician of Cupertino(クパチーノの魔術師)
(*クパチーノはアップル本社の所在地)
ガーディアン:How Steve Jobs changed our world(いかにしてスティーブ・ジョブズは我々の世界を変えたか)
斬新なアイデアと企画の推進力で、また時には強引とも取れるビジネスを展開した“革命児”の訃報とあり、各メディアとも“magic”や“change the world”という意味合いの単語やフレーズを多用していたのが印象的であった。
そんな7日付のガーディアン紙面で目を引いたのが、イタリアのファッションブランド「ディーゼル(DIESEL)」の全面広告だ。“THANK YOU STEVE”というメッセージとともに、同社の創業者であり社長のレンツォ・ロッソ氏のサイン入りで掲載されたこの広告は、紛れもないジョブズ氏への追悼広告。イギリスを始め、アメリカ、フランス、イタリアで1紙ずつ掲載されたこの広告は、ジョブズ氏のビジョンに共鳴していたロッソ氏の肝いりで掲載されたもの。実は当初、日本やアジアも視野に入っていたのだが、時差の都合などにより前出の4地域での掲載となったらしい。
日本でもおなじみのディーゼルだが、1998年のカンヌ国際広告祭(名称当時)では「アドバタイザー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。またロッソ氏自身も革新的なアプローチやビジョンが評価され、各国から賞を受けるなど、その斬新さと積極性が高く評価されている人物である。同社のかつてのキャンペーンでは地球環境をテーマに、“水没したリオ・デ・ジャネイロ”や“熱帯雨林になってしまったパリ”などを表現し、話題となった。
最近では撮影で使用した某図書館から「撮影目的が話と違う」などとお怒りをちょうだいしたようだが、伝えたいテーマを情熱的に伝えようとする姿勢は、世に出したいものをなんとしても形にしたいとしたジョブズ氏とは、特に相通じるところがあったのだろう。ジョブズ氏とロッソ氏は同い年生まれというのも、強く共感するひとつの理由だったに違いない。
謹んでジョブズ氏のご冥福をお祈りいたします。
(広告局ロンドン駐在 林田一祐)
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イタリアのファッションブランド「ディーゼル(DIESEL)」の全面広告。「未来を予測する最良の方法とは、すなわちそれを開拓することだ。」