週末の夕刊の定番と言えば、映画広告。東宝・映像本部宣伝部広告制作室室長の宵奈良紀子氏に、映画広告を夕刊で展開してきた経緯、新聞を使ったプロモーションの潮流などを聞いた。
豊富な映画のラインアップを夕刊で確認
――映画広告といえば、金曜の夕刊にたくさん掲載されています。
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最近は金曜初日の作品も増えてきましたが、多くの作品が土曜日に公開初日を迎えています。土日に映画を観に行こうと考える読者へ直結するナビゲーションとして、上映館や上映スケジュールがわかる「使える広告」としての映画広告は、定例の金曜夕刊に出稿しています。映画広告は他業種にあまりない「連合広告」の形をとることができるので、金曜夕刊は一社単体で規定の枠に出稿するよりもコンパクトにリーズナブルにできるという点で使い勝手がいいのも特長です。
また、連合広告でたくさんの映画がラインアップされることで、「こんな映画もある、あんな映画もある」と、広告をみているうちに読者がわくわくし、映画館に足を運びたくなる意欲を引き出す効果もあると思われます。
2009年12月から朝日新聞東京本社版夕刊に月1回掲載されている「さあ!明日は映画館に行こう」(1都3県の約200劇場、1,000スクリーンの上映情報を掲載した広告特集)も朝日新聞社の読者調査によると好評ですが、この紙面もすぐに「使える」情報が一覧できる便利さが読者から評価されているのではないでしょうか。
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夕刊には、プレゼント情報など生活に密着した、暮らしを少し豊かにしてくれる情報が多いですね。また、映画や音楽、美術、ファッションなどエンターテインメント情報も豊富です。そういった意味でも映画の広告は、楽しくてすぐに役立つ情報や文化的な情報を伝える夕刊と親和性が高いと思います。その一方で、作品によってはターゲットにインパクトを与え、高いリーチの得られる朝刊への出稿も積極的にしたいと思っています。
様々な業種が集まって映画を作る「製作委員会」は、テレビ局や新聞社、出版社などメディアも多く参加されています。新聞社が製作委員会のパートナーになったことで通常よりも量も多く、朝刊や夕刊の区別なく曜日も金曜日にこだわらず、また広告スペースもバラエティーに富んだ出稿が実現するようになりました。
ターゲットに合わせてコミュニケーションの場を設定
――新聞を使ったコミュニケーションで、最近の事例を紹介してください。
朝刊、夕刊いずれも活用したのは「十三人の刺客」と「悪人」です。「十三人の刺客」は2010年9月25日の公開に先駆け、同12日(日)、18日(土)の朝刊に全15段広告を出稿しました。この作品が持っている大きさや迫力、勢いといったある意味「人格」のようなものをインパクトを持って伝えたかったからですが、ターゲットとして考えていた普段忙しく働いて映画をあまり見られないような人たちが、平日よりはゆっくりと新聞を広げたところへずばっと切り込んで目を釘付けにするような、インパクトの強いビジュアルと内容量の多い広告に仕上げることを目指しました。
このときのクリエーティブの力強さは、全15段だからこそ表現できたと手ごたえを感じています。公開前日の同24日には夕刊テレビ面下に出稿しました。
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「悪人」(2010年9月11日公開)は、8月31日に見開き30段のカラー広告を出稿しました。この作品は朝日新聞出版が原作を出版し、朝日新聞社が製作委員会のパートナーであったこともあり、書籍とコラボレーションしたこうした大型企画が実現しました。原作がベストセラーになった話題作だったこと、この年のモントリオール世界映画祭で深津絵里さんが最優秀女優賞を受賞するなどのビッグニュースもあり、パブリシティーとしてもたくさん取り上げられ、記事、映画広告、出版広告など、朝日新聞紙面で「悪人」という文字を見ない日はなかったんじゃないかと思えるほど公開に向けて連日露出されていたと思います。こちらも公開前日には夕刊テレビ面下に出稿しました。
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スタジオジブリのアニメ作品「借りぐらしのアリエッティ」(2010年7月17日公開)は、同9日夕刊に見開きカラー30段の広告特集として出稿しました。鈴木敏夫プロデューサーと米林昌宏監督の対談のまさに「じっくり読ませる広告」。鈴木プロデューサーの「映画情報を夕刊から摂取している人たちに向けて」という意向から夕刊掲載となりました。
――今後の媒体選択の展望について聞かせてください。
媒体を選ぶ時は、ターゲットが主にどのようなメディア接触をしているかが選択の最大の理由ですし、予算配分の大小にもかかわってきますが、「潜在的映画観客である読者にインパクトを与えたり、豊富な内容で説得したりする」「映画を見るために必要な具体的な情報を発信する」ということが基本にあります。それらの情報が発信される場所は、朝刊であっても夕刊であってもよいわけですが、多くの読者が長年の習慣から「映画は金曜夕刊」と認知して見てくれている連合広告の中から抜けてしまうことには躊躇があります。朝・夕刊こだわらず新たな情報発信の仕方について今後も知恵を絞っていくと同時に、長年培ってきた夕刊という場を今後も活用していきたいと思います。