未来への期待感を打ち出す動画メディア「bouncy」 月5000万再生を支える編集長の哲学とは

未来を感じる動画メディア「bouncy(バウンシー)」。生活が明るくなるプロダクトや、社会をよくするアイディアや事例などを、分かりやすい動画にして届けている。毎月150本、バラエティに富んだコンテンツを更新し続ける動画メディアの背骨となる哲学とは。編集長の津田啓夢氏に聞いた。

未来に向かう「生活」と「社会」 ふたつの視点

――bouncyはどんなメディアなのでしょうか。

 テキスト中心の記事ではなく、動画をメインのコンテンツとして提供しているメディアです。毎月150本ほどの動画を更新していて、閲覧数は月間で平均3000万から5000万再生ほど。1本あたりの尺は、1分~数分以内と、いわゆる短尺動画が多いです。

 一般的なネットメディアと大きく異なるのは、X・FacebookなどのSNSを中心にYouTube・LINEニュースなどの多様なプラットフォームにコンテンツを配信する「分散型メディア」という形を取っていることです。

 bouncyの大きなテーマは、「未来のライフスタイルを届ける」。これから先の未来を形作る、ワクワクしてくるような出来事を集めて、分かりやすい動画にしてお届けしています。

bouncy メディアガイド


――「未来のライフスタイル」というのはどういうことなのでしょうか。

 「生活」と「社会」というふたつの視点で、「未来」を感じるモノやコトを取り上げています。

 「生活」という切り口では、ライフスタイルが明るい方向に向かっていくようなトピックスを集めて紹介しています。たとえ小さい製品であっても、「これがあったら便利だな」とか「生活がもっと楽しくなるな」と感じる動画です。個人の生活が良い方向にステップアップすることも未来の形だと考えています。

 もうひとつ、私たちはソーシャルグッドと呼んでいるのですが、社会的な課題を前向きに解決しようとしている人や、これから何か新しいことをはじめていこうという「世の中」を良くする取り組みやアイディアも動画にしています。

――具体的にどのような動画に反響がありますか?

 配信先のSNSの傾向によって、視聴される動画も異なります。例えばFacebookではソーシャルグッドのコンテンツ、社会的に明るい話題に人気がありますね。特に、エコロジーや自然に関するものに興味がある方が多い。

 「やんちゃそうなサーファーが海に落ちているゴミを拾い集めて、廃材で何かを作っている」などという、ギャップのある活動がウケやすい傾向にあります。LINEに配信しているものになると、もう少し若い世代向けで、「スケボーが変形した次世代モビリティ」のようなキャッチーなものが好まれます。

常識を疑い未来を拓く

取り換え)縦450津田さん2枚目

――多様なジャンルのコンテンツはどう集めているのでしょうか。

 bouncyでは、国内外にいるエッジの効いたクリエイターとともにコンテンツ制作を行っています。アウトドア好きのガジェットライター・わっきさん 、釣りのギアに強いフィッシングクリエイター・ハザーさん 、自身の身体を使って人体改造を行う身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田さん など、特定の分野で強い発信力を持っているマイクロインフルエンサーの方がたくさんいます。

 私たちの求めているフューチャリスティックな領域のものなら、取り上げる物事のジャンルは問いません。

――「未来」という幅広い、壮大なテーマとの向き合い方は?

 「未来」の感じ方って、人それぞれだと思うんです。まずは今持っている常識を疑って、コンサバティブを否定することが、未来につながっていくことだと思っていて。これが良いのか悪いのかまだわからないけど、新しい価値を信じてとりあえず前へ進んでいこうよという、ある種の無責任さは大事にしているところです。

 あと、「未来」と聞いて多くの方が頭に描くSF的な近未来のイメージや、最先端のテクノロジーばかり集めても面白くないなぁと思っています。そのため、bouncyを通して触れられる「未来」とは何なのか。1人でも多くの方に深く刺さるよう、あえて雑多な雰囲気を出すよう意識しています。

――では、bouncyでやらないこと、取り上げないものはありますか?

 「危険である」というだけの警鐘は、決して鳴らさない。ネガティブなところでは止まらないようにしています。

 例えば「気候変動が起きて、環境破壊が進んでいます」という話題だけでなく、その先で何か変えようとしている人や物だったりをピックアップする。社会課題に立ち向かうにしても、明るく情熱を燃やしながら「楽しく気軽にやってます」という人を取り上げていきたい。

 私たちの仕事は、「ここから楽しいことが起こりそうだぞ」という、未来への期待感を作り出すこと。bouncyの動画に影響されて、「未来につながる新しいことをはじめました」なんて人が増えれば本望ですね。

「分かりやすくキャッチーに伝える」

津田さん3枚目

――津田さんが考える、bouncyというメディアの強みは?

 「あらゆるものを動画化している」ということに対しては、他のメディアにない大きな強みだと思っています。特に「分かりやすくキャッチーに伝える」というのが私たちの動画制作の大前提です。

 ここ数年、どこを向いても動画が当たり前の時代になりましたよね。街の中を30分散歩して、映像のコンテンツにあたらないのは難しい。自分が持ってるスマートフォンはもちろん、電車の中だったりエレベーターだったりトイレだったり。あらゆるところに映像のサイネージがあります。ということは動画制作は競争も激しくなってきているのですが、私たちはいかに刺激に頼りすぎずシンプルに伝えていくか、に重きを置いています。

 それに加えて、単純に制作力の高さに頼らないようにもしています。「最後まで飽きずに見てもらうためにどう構成したらいいのか」「どのSNSでどういう動画を出したらより多くの人の目に留まるのか」。メディアや編集の知見とノウハウを活かした動画づくりをしています。

 こうした点を評価頂き、企業から言語化が難しいプロダクトやサービスを動画化して欲しいというお声掛けがあります。「この製品を紹介する動画を作りたい」という依頼はもちろんです。さらに「開催したイベントをまとめてダイジェスト版にして、自社のYouTubeにあげたい」などのリクエストもあります。

 多くの企業がウェブの映像を作った経験が少ないなかで、いろいろなアドバイスをしながら一緒に作り上げていく、という感じです。

――最近の企業との事例で、印象的なものを教えてくだい。

 最近の大きな事例といえば、鉄道事業者のまちづくりプロジェクトに関わり、動画コンテンツ制作をしたことですね。クライアントが持っている色々な情報のパーツをまとめて、ひとつの動画で分かりやすく「100年先の未来を見せる」というもので、大変高い評価をいただきました。

 これから広まる新しい価値や、こういう世界もあるよねという未来への提案を「映像化して見せてあげる」のは得意です。一方で、時には「このポイントは動画で見せるよりテキストの方が伝わる」とか、「動画配信よりリアルなイベントをやってみましょう」とか、あらゆる方向から最善を探してクライアントにタッチしています。

 2022年には、伊勢丹新宿店メンズ館でbouncyがセレクトした未来のガジェットを1箇所に集めて紹介するイベントを開催し盛り上がりました。こうした取り組みも、メディアの枠を飛び越えて、私たちの役割なのかなと思っています。

フラットになる時代に存在し続けるために

津田さん4枚目

――bouncyが考える、これからの「未来」とは。

 ポジティブに未来を切り拓いていくうえで、今後は動画制作だけではなく、リアルな接点を持てる企画をもっと増やしていった方が面白そうです。

 オールドタイプの巨大メディアが、ずどんと社会の中心に鎮座して情報の送り出し手として機能していた時代は終わりつつある。  受け手側にとっても、テレビで報道されるニュースとYouTubeで発信された情報が、等しい価値になってきていると感じています。

 すべてがフラットになりつつある時代、メディアが存在する意味はなんなんだろうというのは常に考えている。きちんと危機感を感じながら、そこはポジティブに転換して、私たちの存在価値を提供し続けていきたいです。

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bouncy メディアガイド

bouncyのサービス概要や動画コンテンツの特徴を事例とともに紹介しています。

津田啓夢(つだ・ひろむ)

2018年、動画メディア「bouncy」に参加。同メディアと共に朝日新聞社に移り、202210月に設立した朝日新聞社の100%子会社となる朝日デジタルラボへ。現在、bouncyのマネージャー兼編集長、朝日デジタルラボ広報を兼務。